■
お茶の樹は永年作物といって、新芽を生み出す樹はトウモロコシやトマトなど単年作物と異なり数十年間に亘り継続的に茶園で育成されます。茶農家では春の一番茶製造に向けて一年間かけて施肥・消毒・除草・刈り落とし等により茶樹を管理します。茶の樹はこうした保護のもと、春に新芽を生み出す力を蓄積しながら秋・冬を過ごします。そのため一番茶には茶樹が時間をかけて蓄えた旨みが凝縮された高品質の柔らかい新芽が摘採されます。 こうした点から一番茶とそれ以降のお茶を比較すると、味・水色・香りなどすべての面において一番茶が優れているといえます。(もっとも施肥方法・量の関係から二番茶を一番茶と類似した品質に作れる産地もあります。)二番茶以降の新芽は一見すると一番茶の新芽と同じに見えますが、一番茶に比べて硬く、そのため味・水色・香りもまろやかさがなく、番臭(硬葉臭)が強くなります。煎茶にした時の形も芽が硬いために一番茶に比べて大柄になりがちです。
埼玉県では一番茶(5月頃)とニ番茶(7月頃)しか作ることができません。埼玉県は茶産地として北部に位置しており、春の訪れが遅くまた冬の訪れが早いためです。質問には六番茶とありますが、鹿児島県などの暖かい地域でも基本的には四番茶までしかとれないようです。一番茶(4月)二番茶(6月)三番茶(8月)四番茶(10月)の計四回です。ただ一番茶とニ番茶の間にとる「一茶半」と四番茶の後にとる「秋冬番」と呼ばれる茶期を加えると一年で六回の摘採が可能となります。(実際には六回とる茶農家はほとんどないそうです。)それぞれの違いについては上述のように一番茶はあらゆる面で優れており、茶期を経るに従って番臭(硬葉臭)が強くなる傾向にあるようです。ただお茶は嗜好品であり、人により好みが色々あるため番臭を好む方もいたり、またニ番茶以降のお茶は値段が安価であるために「番茶」の需要はかなりあるようです。長峰園でも7月初旬にニ番茶を作り始めました。
肉体的苦労で言うと、まずは茶園の管理があります。例えば長峰園では約2町4反の茶園を管理しています。茶園管理には施肥・消毒・茶の樹の仕立・除草などがあり、年間を通じてそれぞれを何回か行っていきます。2町4反の茶園は広大であり、肥料を撒いたり、消毒をしたりする作業はややもするとたいへんな苦労を伴う作業となります。また茶の樹の刈り落としなども機械をもったままの姿勢でずっと歩くため終わった後はもうくたくたです。畑の草むしりにしても長峰園では安全性の面から除草剤を使用しないために草刈り機あるいは手作業による除草をおこないます。これがまた時間がかかる作業です。また同じ作業であっても夏の暑い時と春・秋の涼しい時とではずいぶんと肉体的負担が違ってきます。夏の農作業は何をやっても辛いのでしょうね。(最も夏は明け方から10時位まで、そして3時くらいから6時位までの涼しい時間帯を選んで畑に出ます。本当に暑い時間は寝ています。)いずれにしても茶園管理に関する作業は大変な肉体労働といえるでしょう。 精神的な苦労というよりも気苦労といった方が適切かもしれませんが、春先の遅霜に対する心配は毎年茶農家を苦しめているのではないでしょうか。一年間丹精こめて育てた茶樹からようやく芽吹いた新芽が一夜にして消えてしまう(本当は消えてしまうのではなく焼けて縮んでしまうのですが)晩霜害は、やはり恐ろしい存在であり、一番茶前などは毎日天気予報を聞いてヤキモキしたりしています。 また一番茶の最盛期に入ると長峰園では昼夜問わず機械を動かしつづけます。(真夜中にお茶を作るのもなかなか重労働です。)そのためにコンテナという大きな鉄製の箱に生葉を入れて管理しておきます。もう御存知かもしれませんが、茶の葉は摘まれた直後から酸化をはじめています。コンテナはこの酸化を抑えるために湿らせた空気を生葉に当て続ける仕組みをもっています。毎年のことですが忙しさがピークを迎える時期にこのためのスイッチを入れ忘れ、生葉をダメにしてしまいます。気がつくと紅茶のような香りが漂っていて、生葉が本当に熱くなって、紅茶のような色になってしまうのです。こうなった生葉はもう使えないので、捨てることになるのですが、生産家としては計り知れないダメージが疲労した体に与えられることになります。 お茶の摘採は主に5月に集約されてしまうために、作る過程において何らかのミスが生じると取り返しのつかない失敗につながることが多いような気がします。約3週間の一番茶期ですが、失敗を許されない茶農家にとっては一年で一番長く感じる3週間なのです。
ここで紹介した他にも様々な苦労がありますが、それはまたの機会に譲りたいと思います。